意見の違い知り、判断力を培う
「食の安全編」のクロスロードゲーム。遊びを通して、様々な意見があることを知ることができる
「あなたは看護師。勤務する病院に新型インフルエンザの患者受け入れが確定。しかし、自分を介して保育園に通う子どもに感染するのではと心配。理由をつけて欠勤する?」。こんな大変な状況を想定して、参加者同士で意見を交わすカードゲーム「クロスロード」の人気が高まっている。
元々は阪神・淡路大震災をきっかけに防災教育のために作られたものだが、食の安全や新型インフルエンザなどテーマも多様化している。
クロスロードは英語で「分かれ道」といった意味。通常、5人でゲームを行う。様々な状況を設定した問題カードを1人が読み上げ、全員が「イエス」か「ノー」のカードを出す。
多数派になった人は「青い座布団カード」がもらえる。ただし、4対1になった場合は、多数派はカードをもらえず、少数意見の1人だけが「金の座布団カード」をもらえる。その後、参加者は「イエス」「ノー」を選んだ理由を語り合う。
10問が終わった時点で、座布団の色に関係なく、カードを多く持っている人の勝ちだ。多数派になるよう予想し続けて青い座布団を集めることもできるし、少数意見だけを狙って金の座布団を集めることもできる。
「イエス」「ノー」のどちらが正しいというわけではなく、また意見を統一したり、ディベートのように相手を論破したりする必要もない。参加者同士で議論して、自分とは異なる意見があることを知り、判断する能力を培うのが目的だ。
この夏、「食の安全編」「新型インフルエンザ編」が、日本公衆衛生協会(東京)から発売され、保健関係者や学生の間で使われている。
たとえば、「食の安全編」の場合、「ある原料に保存料のソルビン酸を2倍入れたとの報告を作業員から受けた。ただ、使用量が2倍になっても食品衛生法違反ではない。このまま出荷する?」と聞かれ、「イエス」「ノー」を判断する。
「新型インフルエンザ編」なら「流行がおさまりそうもない。しかし、自宅にこもっている生活も限界。子どもも外に出たがるし、自分も買い物がしたい。しかし、感染はこわい。どうする?」。
作成にかかわった順天堂大医学部助教の堀口逸子さん(公衆衛生学)は「立場によって、人の考え方が大きく変わることが実感できるはず。新型インフルエンザ編などは、流行に備えての模擬訓練にもなる」と話す。
クロスロードは、神戸市職員から聞き取った体験談を基にした防災対応ゲームが元祖。2005年に京都大生協から発売され、これまでに1000部以上売れている。その後、各地の自治体やボランティア団体が、地域の防災や子どもの安全をテーマに独自のものを作っている。社員研修用に作成する企業もあるという。
当初からクロスロードにかかわる慶応大商学部准教授の吉川肇子さん(組織心理学)は「普段、生活する中で、全く予想もしない他人の意見にぶつかり、臨機応変に判断を迫られることがある。ゲームを通して引き出しを作っておけば、実生活でもプラスになる」と話している。
(2008年11月4日 読売新聞)